インテリアのノウハウ

学童机と人工乾燥機

23話・24話でモネは登米市の公共事業として、小学校の学童机4200セットの受注を目指しますが、納期半年と言われ断念しかけます。このことは全くのフィクションではなくある程度の事実が含まれているようです。

それでは、なぜこのことが難しいと考えたのか検証してみましょう。
いくつかの理由が考えられるのですが、以下の3点に集約してみました。
なお計算については仮定がたくさん入っていますので、あくまで参考程度に考えて下さい。

問題の種類問題の理由        解決方法
1.原木の問題この家具を作るのにどれだけの原木が必要になるで
しょうか?
ざっくりですが以下のように計算してみます。
【目標】600×400×16の天板を4200台分
コナラの平均直径φ200 L2000×3番玉までと想定
天板の幅と奥行きは一般的な学童机の大きさを参考
幅接ぎは40mmピッチで厚みは16㎜(これは組合に
確認しました)
構成する仕上げ前の板材を40×20×650とします。
1本の木から270枚程度の板材が取れる計算になり
ます。
板材が1台当たり最低10枚必要なのですが、使え
ない部分が20%あると計算すると1本の木で21台分
の材料が取れることになります。
4200台分必要なので最低200本の木を伐る必要が
あります。
これは結構な量なのですが、伐採するマンパワー
よりもこれだけの立木が存在するかが気になります。
広葉樹の場合、同じ樹種ばかりが生えているわけ
ではなく選り分けなければならないからです。
この仕事を伐採から始めていたらどちらにしても
間に合いません。
ここまで書いてなんですが、まずは製材された木の
ストックがあるというのが前提になるでしょう。
登米町森林組合では時期にもよりますがそれなりの
ストックを抱えています。しかし、実際には納品に
3年半かかったことを考えると、半年や1年分の
ストックでは全く足りないというのが伺い知れます。
基本的に広葉樹の場合、同じ
樹種をまとめて伐採するのは限度があります。
長期の計画を立てて少しずつ
ストックしていくことが重要です。
2.乾燥の問題登米町森林組合さんには広葉樹の人工乾燥機が2台あります。
実質乾燥できる材料は古いほうが3㎥、新しいほうが
5㎥とのことです。
合わせると8㎥乾燥できます。
1本あたり0.17㎥とすると、1回で乾燥できるのは47
本くらいになります。
200本乾燥するのは、
 200(本)/47(本)=4.25(回)
5回乾燥機を回すことになります。
1回あたりの乾燥期間が10日から2週間として、
2か月くらいで人工乾燥はできそうです。

ただし、その前に天然乾燥をします。
一般的に広葉樹は1年以上乾燥させると言いますが、
厚みが5㎜増えるごとに2か月かかると聞きました。
30mmの板の場合、30÷5×2=12か月で、1年かかる
という事になります。
今回20mmの板だと8ヶ月になりますが人工乾燥で
2か月なので、トータル10か月はかかりますね。

モネはこの天然乾燥の期間を縮めるためにビニール
ハウスに入れることを考えつきました。
おそらくその元になったのが、登米町森林組合プレ
カット工場の太陽熱乾燥庫です。
これは大きなビニールハウスのような倉庫で、熱源
は太陽のみで温かく木材が保管できる建物です。
広葉樹の乾燥ができる中温(低温)
乾燥機が必要になります。
特に家具に使用する場合は、高温で
乾燥させると割れや反りの原因になる
ため、中温以下であることが重要。
森林組合で乾燥機を持っているところ
は少なく、更に広葉樹の乾燥ができる
ところは大変少ないと思われます。

太陽熱乾燥庫がプレカット工場に
あります。

果たしてこれが天然乾燥の期間短縮
にどの程度効果があるかのデータは
ないのですが、ビニールハウスの実験
で、屋外の2倍くらいの速さで乾燥
したというものがあるので、効果は
あると考えます。
3.加工の問題加工についてはおそらく上記2つほどの問題はない
のではないかと思います。
工程はざっくり以下の通りです。
1.製材 → 2.幅接ぎ → 3.表面加工 → 4.塗装
この中で幅接ぎは接着剤が硬化する時間が必要で、
塗装は乾燥時間が必要となるので1日の限度枚数が
ありそうです。
ドラマでは幅接ぎの際に雇いザネを入れていました
が、これは時間がかかります。そこで、実際はイモ
で接いでいます。イモとは接着面にサネやダボを
入れず平滑な木の面同士を接着剤で付ける方法です。
『接着剤の性能が上がったので、イモで十分』
とよく言われます。
塗装はウレタンか、オイルか分からないのですが
オイルだと結構2~3日かかるかも知れませんね。
ウレタンの場合は工程は多いけど乾燥(硬化)時間
は4時間くらいでしょうか。

いずれにしてもある程度の規模の工場(もしくは複
数)があれば、何とかなりそうな気はします。
4200台を月25日×3か月で作るとなると、1日56台な
ので十分できそうです。
ドラマに映っていた工場は登米町の『ウッディ〇
〇』さんですね。私も1度伺ったことがあります。
仕上げはここで行うとして、幅接ぎの板を製作する
のはもっと大きな製材工場で進められると思います。
造作家具工場は少量のオーダー家具を
作るのが得意ですが、大量生産には
向きません。
残念ながらOEM生産を行う家具工場は
宮城県にはほとんどありません。
むしろ建材や集成材を作る大型の工場
で幅接ぎまで製造し、仕上げや金属脚
とのアッセンブルを造作家具工場で行
うことになると思います。
ちなみにドラマのように木製の天板に
金属製の脚を組合わせた家具を
『木金混合家具』と呼んでいます。

【元家具メーカー国産材担当責任者:鹿野勝則】